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ウミガメ30匹が瀕死状態で発見!不審な傷跡は人間によるもの!?事件の経緯や原因などまとめ

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透き通るような青い海に白い雲、絵葉書のような砂浜に囲まれる美しい孤島で、センセーショナルな事件が起きました。

絶滅危惧種にも指定されるアオウミガメが、なぜ30匹も瀕死状態で発見されたのでしょうか。事件の経緯や原因について、詳しく調べてみました。

ウミガメ30匹が瀕死で発見!不審な傷跡から導き出される答えが伝えた現実とは

海中をゆうゆうと泳ぐウミガメ東洋一を誇る浜辺をもつ久米島に瀕死のウミガメが30匹…あまりにアンバランスな出来事に、その余波は海外まで及んでいます。

なぜ保護すべき絶滅危惧種のウミガメが瀕死状態で見つかったのか?

調べてみえてきた事件の全容や起きてしまった理由は、思いもよらぬ現実を伝えてくるものでした。

久米島ってどんなところ?

今回の事件が起きたのは沖縄県南部から西へ海を100kmほど渡った先に浮かぶ沖縄諸島の1つ、久米島(くめじま)です。

久米島はいくつもの美しい浜辺に囲まれた離島で、人口7,192人(2020年時点)がくらす沖縄県久米島町があります。

島の外周はおよそ48km、車で1時間あれば回れる大きさです。

「結構小さな島なんだね。1日あれば十分楽しめそう」

と思いがちですが、久米島はほぼ全域と周辺海域を県立自然公園に指定されるほど歴史・文化遺産や雄大な自然に恵まれた島。

島全域にひそむ数多くの観光スポットを隅々まで楽しむなら、とても1日では足りないでしょう。

久米島の有名観光スポット

  • ハテの浜
  • シンリ浜
  • イーフビーチ
  • ミーフガー
  • 畳石
  • ヤジヤーガマ(鍾乳洞)
  • 久米島ホタル館
  • 久米島ウミガメ館
  • 奥武島キャンプ場
  • 乗馬体験
  • シーカヤック体験 etc

島の自然は、単に観光地としての景観を目的として維持されているわけではありません。

この自然に生息する希少な多くの動物・植物について、調査・保護をすすめる場所でもあります。

もちろん、美しい海に生息するさまざまな生き物も、その対象。今回の事件は、その海にくらす「ある生き物」に異変が起きたことから始まりました。

事件の経緯

事件は、2022年7月14日の午後3時すぎに起きました。

久米島の東側に位置する沖縄県島尻郡久米島町真謝(まじゃ)の沖合50メートルの海岸で、島民から

「5~6匹のウミガメが弱っている」

と、久米島ウミガメ館に通報が入ります。

 

ウミガメ館の職員が現地に駆けつけると、そこには大量のアオウミガメの死骸や瀕死の個体がありました。その数、なんと30匹以上。

職員が確認したところ、ほとんどのウミガメは首や前ヒレの付け根から出血し、息も絶え絶えだったそうです。

明らかに鋭利な物で刺されたような傷跡に、確認した職員からは

「自然にできる傷ではない。傷跡や発見した状況に不自然な点がある」

という声があがり、県警が捜査にのりだしました。

瀕死で見つかった「アオウミガメ」ってどんな生き物?

アオウミガメは爬虫綱カメ目ウミガメ科アオウミガメ属であるウミガメの一種で、主に熱帯や沿岸・島の周辺に生息しています。

体長は80~150cm、重さは90~200kg。楕円形の甲羅を背に、長い距離をゆったり泳ぐ姿はなんとも愛らしいですね。

アオウミガメを始めとするウミガメは、全種IUCNのレッドリストに記載される絶滅危惧種です。

IUCN:国際自然保護連合。1948年に設立された国家・政府機関・非政府機関で構成される世界最大の自然保護ネットワークです。

また、ワシントン条約にも掲載されているため、ワシントン条約に加盟する140ヶ国では国同士の取引が禁じられています。

それでも乱獲や自然環境の悪化等から個体数は著しい減少が続いており、日本で観測される状況も同様です。

沿岸や島周辺に生息するウミガメの減少をくい止めようと、どの生息域でも調査や種の保全に尽力しています。

 

そんなアオウミガメが大量に瀕死状態でみつかった一帯は、ウミガメのエサとなる藻が豊富に群生する場所でした。

アオウミガメは、ウミガメの中で唯一の草食性。きれいな海に漂う藻を食べに集まっていたと考えられます。

事件を起こした人物とその理由

結論からいうと、今回の事件を起こしたのは「地元の漁師」でした。

現地に設置した魚網に大量のウミガメがかかっていた。絡まった網から外して逃がそうとしたが、暴れる個体もいた。
漁や自分の身を守るために駆除するほかなかった。

事件のあった藻場は、地元の漁師たちがイスズミやチヌマンを捕るための漁場でもあったんですね。

そこで漁を行った魚網にウミガメからその漁師たちは漁の成果を守るために致し方なくウミガメを傷つけた、ということです。

 

実は、久米島に生息するアオウミガメは以前から漁業との共存の難しさがさけばれる生き物でもあります。

漁業におけるアオウミガメの問題点

  • 天然もずくが育つのに必要な海草を食べてしまう
  • 養殖もずくも食べてしまう
  • 魚網にかかってしまう(網は切って自費修理するしかない)

ウミガメによる被害に対する漁業への補償は一切なく、被害が出るたびに漁師たちは身を切らなければいけなかったようです。

そのため、漁師の中にはウミガメを「害獣」と考える人も…。

 

この事実は地元では周知の認識だったようで、事件発生後から「漁師がやった可能性」も視野にいれて調査が行われていました。

事件現場には刺し網漁で使用する魚網があったため、現地を確認した人の中には誰の仕業か予測がついた人もいたかもしれませんね。

 

今回、ウミガメの駆除を行ってしまった漁師は自分のしたことを認め、大変反省し、落ち込んで仕事に復帰できていないそうです。

今回の事件に対する声や意見

なお、今回の件について島には

久米島への旅行をとりやめた!
久米島産のものは買わない!

など、抗議や苦情の電話・メールが多数寄せられています。

 

また、SNS上にもさまざまな意見があげられました。

同年春にもウミガメの不審死があったため、その時に対策しなかったのか?以前から問題を放置していたのでは?という声もあるようです。

久米島の今後の対応は

2022年7月20日、久米島町長は久米島町HPにて、

  • 2000年に久米島ウミガメ館を設置して以降、ウミガメの保護活動や海洋環境の保全に取り組んできたため、今回の件は非常に痛ましく遺憾
  • 再発防止策を協議するとともに、島の豊かな藻場の保護と、ウミガメと漁業が共存できるよう取り組んでいく

と掲載しています。

具体的な再発防止策としては

  • ウミガメが網にかかった時の対応
  • ウミガメが自力で逃げられる網の検討
  • 網の設置場所を限定

を検討しているとのことです。

絶滅危惧種の保護と人間の営みに必要な漁業、どちらも欠くことなく久米島を支えるものとして守っていけるといいですね。

日本に生息する「絶滅危惧種」は意外と身近にいる

こちらを見つめるラッコ先述のとおり、今回瀕死状態にあったアオウミガメは絶滅危惧種に指定される生き物です。

世界にはアオウミガメの他にも多くの絶滅危惧種が多く存在し、日本でも約350種の野生生物が指定されています。

でも、絶滅危惧種は保護されているはずだから、私たちが見かける機会ってあんまりないのでは?

実は、そうでもないんです。

今回のアオウミガメのように、絶滅危惧種に指定された野生生物たちは意外と私たちの身近で生息しています。

日本に生息する絶滅危惧種

  • アオウミガメ
  • ニホンイシガメ
  • ラッコ
  • アマミノクロウサギ
  • イリオモテヤマネコ
  • ジュゴン
  • カブトガニ
  • コウノトリ
  • イヌワシ
  • ヤンバルクイナ
  • オオタカ
  • シマフクロウ
  • アホウドリ
  • ライチョウ
  • ハヤブサ
  • ツキノワグマ etc

たとえば、沖縄諸島に生息するヤンバルクイナ。

日本で唯一の「飛べない鳥」であるヤンバルクイナは、外来種のマングースやノネコによる捕食が原因で減少してしまいました。

今は、沖縄県北部のやんばる(山原)エリアのみに生息しています。

北部にも当然車道があるため、ヤンバルクイナが描かれた「とび出し注意」の看板があちこちに設置されているんです。

時折、道端でエサを探す姿を目撃できることもあるそうですよ。

 

また、一時期ブームにもなった水族館の人気者ラッコは、実は2021年時点で国内にわずか4頭が飼育されるばかりとなっています。

乱獲や事故による生息数激減で絶滅危惧種へ指定され、外国からの輸入は規制。

飼育される個体は高齢で繁殖を見込めないため、このままでは日本の水族館からラッコが消える日はそう遠くないのが現状です。

なお、北海道東部の霧多布岬では野生の親子ラッコの姿が見られます。

2016年ころに北方領土から流れてきたチシマラッコという種だそうです。姿が見られる浜中町では、鑑賞の手引きを作成するなど静かにみまもr呼びかけています。

 

思いのほか、絶滅危惧種は私たちの生活のそばに存在しているんですね。けして他人事と思わず、耳を傾け、多くの種の共存について考えていきたいところです。

まとめ

オーシャンブルーを漂うウミガメ保護・保全に取り組みたい島の意思と、生活のために漁業を問題なく続けたい地元漁師たち。「どちらが良く、どちらが悪い」という話ではないからこそ、難しい話なんですよね。

久米島を大切に思うすべての思いを置いてけぼりにしない道が見つかるよう、遠巻きながら願っています。